2017年04月07日

経営者を訪ねてVol.41 高田馬場総合法律事務所 松岡太一郎様

 「自己紹介するとき、僕は自分のことを”チンピラ弁護士”と表現することがあります。」

 東京中小企業家同友会の仲間である、高田馬場総合法律事務所の松岡太一郎弁護士。彼は、いわゆるボス弁護士や兄弁護士の手取り足取りの指導を受けられる”お上品な事務所”の出身ではないため、”弁護士としては「異質な存在」である”と、ご自身を表現する。

”先生”と呼ばれるような威圧感を一切感じない、温かみを感じる人だ。そんな松岡さんのインタビューに伺った。


 

価値観を変えた空手道

 生まれも育ちも文京区、大学は東京大学法学部。”お坊ちゃま”で育ってきた松岡さんが、「やったことがない格闘技をやってみたい」と門戸を叩いたのは、地元の主に社会人が通う空手道場だった。

学歴も経歴も生い立ちもまるで違う、自分が今まで出会ったことのない人たちに、初めて出会う場。道場では「東大生」という肩書は全く意味をなさない。厳しい稽古で鍛えられながら、自分の周りに今までいなかった人たちに、どんどん魅了されていった。

 ある時、同じ道場生から、「学歴が足りないから」と会社にクビを切られてしまったという話を聞く。一生懸命、真面目に働いても、報われない人が身近にいると知った。自分の身近な人の少しでも役に立てる弁護士になれたら…。松岡さんは「一生懸命、真面目に生きている方々の役に立つ弁護士になろう」と決意した。

 

弁護士がご飯を食べていけない時代

 松岡さんが司法試験に合格したのは平成20年。試験制度が変わり、弁護士数が急増している最中だった。弁護士数が増えても、世の中の案件が同等に増えるわけではない。「弁護士がご飯を食べていけない時代」が到来していた。

 不運は続く。「弁護士」として内定が決まっていたにもかかわらず、ボランティア等に精を出し過ぎ、弁護士資格を得られる司法修習の最終試験に不合格になってしまう。内定先に頭を下げ、「アルバイトの事務員」として、なんとか雇ってもらうことになった。

 内定先では、事務員として働いて”食べていく”ことの厳しさを実感させられる修行の日々。くじけそうになる心を支えてくれたのは、空手道場の仲間、司法修習の同期の仲間や恩師たちだった。

 松岡さんは、この事務員時代は宝物だと振り返る。

「事務員という雇われる側の立場で働いて、”食べていく”ことの意味を実感させられました。だから、今は僕の顧問先企業の人事労務も、社員の気持ちを推し量って対応していくことができます。また事務員は、弁護士の一番近くで一番冷静に弁護士を見ているとわかりました。弁護士になる前に”事務員”という経験があったから、”自分はどんな弁護士か”常に客観的に真摯に受け止められるようになったんです」

 

「弁護士」と「依頼人」から、「人」と「人」へ

 2度目の司法修習の最終試験に合格し、知り合いのつてで何とか就職ができた弁護士事務所は、弁護士歴40年以上のボス弁護士はいたものの、「インターネットで集客し、最初から自分1人でお客さんと面談・依頼してもらい、自分1人で紛争を解決していく」という徹底したOJTの事務所だった。

 経験も人脈も一切ない中、自分1人の力で短い時間内においてお客さんからの信頼を得て依頼してもらうしかない。

 インターネット経由で来る人は、どこにも頼ることができない、切羽詰まった人ばかりだ。多重債務者の方から中小企業の経営者まで、あらゆるジャンルの案件の様々な依頼人たちを相手に、なおかつ単価の低い案件を、一つ一つ丁寧に対応していくしかなかった。

 その中で、松岡さんの考え方を変えた出会いがあった。「親子ともに破産する」案件である。

 その親子の通帳を見た時、片方が金銭に困ると、他方が自分のなけなしの給料から援助するというようにお互いに助け合っていることが読み取れた。その親子は、互いに通帳の送金・入金を通して、「頑張れ、頑張れ」と励まし合っていたのだ。

 それまで頭のどこかにあった「破産する奴なんてとんでもない」という考えは一気に消え失せた。2人の通帳の履歴に、頭を殴られたような衝撃だった。

 初めて、依頼者に自分を重ねて見ることができたそのとき、「”弁護士”と”依頼人”という関係ではなく、”人”と”人”として依頼人と向き合いたい」と心から思ったのである。

 

理想の労使関係の実現を目指して

 まずは、食べていくために様々な案件を取り扱った。いろんな依頼人の生き様と向き合い迷い悩むうちに、心理学に基づくカウンセリングにも答えを求めた。

 他方で「真面目に一生懸命生きている方々誰もが報われるような社会を実現したい」という想いはずっと心にあった。

 約2年半かけて不当解雇された労働者側で戦った裁判で勝訴したこともあった。

 しかし、自分のこの想いを実現するなら、「労働者側だけでなく、会社側にも立ってその会社内において理想的な労使関係の実現を目指す方がむしろ理想に近づけるんじゃないだろうか…?」と感じるようになる。

 法学での解決に限界を感じた松岡さんは、理想的な労使関係の実現のヒントがほしくて社会人向けの夜間の大学院に入学し、経営(特に労使関係)の勉強を始め、多忙な弁護士業務をこなしつつ2年間で大学院を修了し経営学修士号(MBA)を取得したのだった。

 

憎しみの螺旋と向き合ってもらうために

 「僕の依頼人たちは人生のどん底にいて、弁護士に救いを求める方々が多いです。中には”相手を殺したい”程憎んで思い詰めて、来られる方々もいらっしゃいます。僕自身も紛争の相手から恨まれることもあります」

 松岡さんは続ける。

 「僕は”人の心を救う”ことはできません。法的な意味で勝つことはできることがありますが、そうしたからといって、僕が依頼人の”心”を救えるわけじゃない。結局、依頼人の人生なのだから、依頼人が自身の憎しみと向き合い、自分自身で自分なりの決着をつけるしかない」

 「僕にできることは、依頼人が自力で前に進み笑顔になれる”自家発電”ができるようになってほしいと願いながら、ときには厳しいことも言って、とことん依頼人の”心”に寄り添うことだけです」

 

 弁護士なのにカウンセリング?MBA?松岡さんを取り巻く経歴や教養の広さの「?」に、答えが出てきた。

 “法律”を使って、”正しさ”で依頼人を勝訴に導くことができる弁護士は沢山いるだろう。でも、憎しみの螺旋で一杯になって破裂してしまいそうな心に、時に1年以上も寄り添う、こんなに”心”に重きを置いた弁護士はそうそう出会えないのではないだろうか。

 

 松岡さんはきっと愚直で、すごく不器用で、進んで損をしてしまうような人だ。

 でも、だからこそ、「あなたに側にいてもらったおかげで」と、真の意味で「依頼人を救うことができる人」だと感じたのだった。

 

 松岡さん、ありがとうございました!

 

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