2017年05月26日
経営者を訪ねてVol.42 株式会社西尾硝子鏡工業所 西尾智之様
ご縁をいただき、東京都大田区にてガラス・鏡の加工を手掛ける(株) 西尾硝子鏡工業所様にお伺いしてきました。
会社訪問すると、社長のお人柄が全体の雰囲気から伝わってくるような気がいつもしています。同社も社員さんの笑顔が印象的な会社です。
最初に工場を見学させていただき、その後西尾社長のお話を伺いました。
社員の感情を受け止める
同社は西尾社長が4代目社長。24歳で家業を引き継いでからは、職人さんに認めてもらうために、記憶がなくなるほど営業に奔走しました。
同業者が次々廃業し、毎年不渡りが出るような「失われた10年」を乗り越え、丸ビルに始まる東京の再開発ミニバブルでようやく経営に光が差したのも束の間、リーマンショック・東日本大震災で大打撃を受けます。
出血を押さえなければならず泣く泣くリストラを断行、気がついてみると既存社員の心は離れ、社内は不信感の塊でした。
経営の修羅場に立ち、西尾社長は「会社を大きくすることが後継者として当たり前だと思っていたが、そうではなかった。環境変化に適応し、永く続けることが大事だ」と、「組織開発」に始まる社内改革を決意します。
“社長が不在でも回る組織づくり”のためには、幹部候補を育てる必要があります。既存社員で「この人に!」という人を、「ちょっとお昼付き合ってくれる?」とランチに誘い、1人1人に「幹部になってくれないか」と直談判しました。
ある人は、その話をした途端、食べていたうどんを噴き出しました。そして、西尾社長にこう言ったのでした。
「社長、私はてっきり首を切られる話をされるのだと思っていました」
社員との信頼関係がここまでできていなかったのか…、と感じたといいます。
組織開発は、全社員の「会社に対して思っている事」を洗いざらい紙に書き出すことを行います。そして、1対1で膝と膝を突き合わせ、お互いの目を見ながら、「あのときああいう出来事があり、自分はこう感じていた」と、過去の感情を全てさらけ出します。
「社員の言葉を受け止めるのは本当に辛かった。すぐには目を真っ直ぐ見ることができなかった」と西尾社長。しかし、そこで逃げたら変わらないと、反論をせず社員の感情を受けとめました。
「社員は、社長の”ぐっとこらえる”姿を見ています。最後、全員が笑顔になったとき、一体感を感じることができたんです。『戦略をやりきる組織』になる手ごたえがありました」。
「小さな約束」を守るために、そうじをする
西尾社長が環境整備に取り組み始めたのは、組織開発ミーティング後に「決めたことを守る」を実践するため。
目指す「戦略をやりきる組織」になるために、「小さな約束を守る」は一番大切なポイントです。
「朝礼後全員で10分間社内のそうじをしよう」と決めました。
「”小さな約束を守る”を継続し、企業文化にする。だから、就業時間内にそうじをするんです」。
はじめはしぶしぶだった社員。しかし、続けるうちに社内に変化が現れました。製品クレームがいつの間にか無くなっていたのです。
「前はクレームがあった時、『我々のせいではない。輸送途中や開封時に傷がついたのではないか』と言っていた人もいた。でも今はクレームが無いし、そういう風に言う人もいない。すごく変化しているよ!」。社長の呼びかけに応えて、社内に環境整備に対する火がつき始めました。
現在も日々社内環境の改善活動が進んでいます。
未来を見せるのが社長の仕事
同社の事業計画には、縦軸に年度、横軸に社員一人一人の名前が入ったマトリクス表があります。「○○さんが44歳の時にこうなっていてほしい、という私の願いをまとめていったら、それが事業計画になりました」と西尾社長。
ある社員さんが自分の欄を見た時に、「ベトナム支社の工場長になる」という表記を見つけました。「え!社長、俺ベトナムにいる予定なんですか?」と言った翌日、彼は自主的に本屋に立ち寄り、「ベトナム語の勉強をする本を買ってきたんです」と社長に笑顔で報告してくれたといいます。
「現場のみんなは、目の前の仕事に一生懸命です。今の仕事の先に何があるのか、会社の未来はどうなっているのか、それを見せるのは社長の仕事だと思います。未来が見えることで、成長したいという希望が出てくると思っています」。
西尾社長が組織の信頼関係に真摯に向き合ったからこそ、社員さんの想いと西尾社長の想いのベクトルが合っているのだろうと、私はお話を聞きながら感じました。
特に事業計画の元となっているマトリクス表は、社員さんひとりひとりとしっかり向き合わなければ、「この人にはこうなっていてほしい」と書き出すことはできません。
「社員とともに会社を永続させていきたい」という、社長の本気が形になっています。
同社は平成25年に、東京商工会議所の「勇気ある経営大賞」の優秀賞を受賞しています。
評価されているのは接着の技術と製品開発ですが、私はまさに西尾社長の「向き合う経営」こそが、「勇気ある経営」だと感じました。
西尾社長、ありがとうございました!
※(株)西尾硝子鏡工業所の記事を、下記よりご覧いただけます。
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