【第155号】“モノ”の工夫から“コト”の改善へ|石見交通(株)

支援事例紹介“モノ”の工夫から“コト”の改善へ~石見交通()そうじの力~島根県西部で、路線バスおよび長距離バスを運行するバス会社、石見交通()。ここで「そうじの力」の活動が始まって、五年余りが経ちます。「そうじ」とは、「本質を明らかにし、究めること」です。乱れたり汚れたりしている「モノ」を整えるアプローチをつうじて、その奥にある「コト」の問題をあぶり出し、その解決を図っていくのが「そうじ」なのです。「モノ」の問題で言えば、当初の同社では、モノが多すぎて溢れていました。不要なモノを捨てていく過程で、そもそも、用途や保管期限が明確になっていない、という問題が明らかになってきました。たとえば、経理や総務の書類。法律で保管期限が定められているものはさておき、それ以外の書類については、社内で保管期限を決めなければなりません。一つひとつの書類の目的や用途を確認し、それぞれの保管期限を決めていきました。あるいは、バスの整備工場の部品庫。無造作に部品が積み上げられた当初の部品庫は、「分かる人間だけが分かる」という独善的な世界でした。一つひとつの部品の名称や用途を確認し、不要なものは捨て、必要なものは誰が見ても分かるように棚に収めていきました。こうして、基準や手順を明確化した結果、いままで当事者が「なんとなく」行ってきたことを、新入社員や他部署も含めた誰もが行えるようになってきたのです。また、同社においては、関連会社七社を含めて多数の部署がありますが、それらすべての部署でこの「そうじの力」に取り組んでおり、時には部署を超えて一緒に活動をしています。そうした活動が、今まで希薄だった横のコミュニケーションを促進しています。今回、経理部や総務部などの事務系部署においては、「フリーアドレス」を導入しました。これまでは、一人につき一台のデスクがあてがわれていたのですが、フリーアドレスでは、個人専用のデスクはありません。共用のテーブルに状況に応じて着席していきます。フリーアドレスでは、個人の占有スペースがないために乱れにくいという利点があります。さらに、状況に応じて席順を変更できるので機能性にも優れています。たとえば、経理部においては、二人ペアになって数字の読み合わせをする際、これまでは別室に移動する必要がありました。しかし今では、読み合わせをする二人が隣同士に座るだけで、コトが足りてしまいます。粋なのは、テーブルの配置です。これまでのデスク配置では、入り口から入ってくるお客様に対して、背を向けているスタッフがいたのですが、テーブルを斜めに配置することで、全スタッフがお客様に背を向けることなく着席できるようになりました。加えて、事務所の端に、スタンディングでミーティングができる小さなスペースが設けられ、気軽に打合せができるようになりました。これも、コミュニケーションの促進に役立っているようです。こうした一連の工夫は、彼ら自身が試行錯誤し、意見を出し合いながら創り上げていったものです。整備工場においては、今回、手洗い場をリフォームしました。老朽化し、色のくすんだ壁やシンクを、自分たちで塗り直しました。明るくなった手洗い場は、気持ちも明るくさせます。自分たちで行う手作りの良さは、そこに愛着が湧くことと、やりながらコミュニケーションがとれるということです。ここでも、整備士以外の事務員や女性も一緒になっての活動が行われています。バスの運行を司る営業所においては、バス停の整備に力を入れています。ある屋根付きのバス停では、大量のゴミが放置され、ひどい状態になっていました。ゴミを放置するのは第三者であるため、何らかの強制力を働かせるわけにもいきません。同社の社員が定期的にそうじして、キレイな状態を維持することが、唯一の抑止力と言ってよいでしょう。そうじに参加したあるスタッフは、「汚れていると、ますます汚れる。キレイにしておけば汚さない」とコメントしていました。こんなところから、本当のお客様サービスが生まれてくるのかもしれません。同社の小河英樹社長は、「いずれ多くの職種はAIに取って代わられる。しかし、一人が二役三役をこなせること。常に変化・工夫していくこと。本質を見極める力をつけることができれば、生き残れる。そうじの力はそのための基礎活動」と言っています。(小早)「そうじの力」コラム「工夫・改善」につなげてこそ「そうじ」~キレイにするだけで満足していないか?~ 出張で全国を回っているので、各地のホテルに泊まる機会がたくさんあります。 先日、とあるホテルに泊まっていた時の、朝食会場での出来事です。 いわゆるビュッフェスタイル(バイキング形式)の朝食会場で、各自が好みのおかずを自分のプレートに取り分けていきます。けっこう混みあっており、牛歩状態。 そんな中、私の前にいた人が、自分のトレーをカウンターの前に置いて、お茶碗にご飯を盛りつけていました。すると、バランスを崩したトレーがひっくり返り、ガシャーンと床に落ちてしまいました。もちろん、お皿に盛っていたおかずは散乱し、台無しになってしまいました。 呆然とする本人(客)に対して、ホテルの係員が飛んできて、「お客様、大丈夫ですよ。」と声を掛け、すばやい身のこなしで、ホウキとチリトリで散乱したものをそうじしていきます。 あっという間に場が片づいて一件落着。その客に新たなトレーが渡され、また盛りつけが再開されます。 一部始終を見ていた私も「やれやれ」とホッと胸をなでおろし、席について食事をし始めました。 するとほどなくして、またカウンターの方でガッシャーン!という音。振り返ってみると、またご飯を盛りつける所で、トレーがひっくり返っているのです。 もう読者のみなさんにはご想像がつくと思うのですが、要するに、トレーを載せておくスペースが狭いのです。トレーの半分くらいしか載せておくことが出来ないのです。ご飯を盛りつける際には、左手に茶碗を持ち、右手でしゃもじを持つので、両手がふさがります。トレーを支持することができません。バランスを失ったトレーがひっくり返るのは、当然の帰結なのです。 二回目も、ホテルの係員が飛んできて、丁寧にそうじをし、場は片づきました。 でも、それで終わりで良いのでしょうか?明らかに仕組み(システム)に問題があります。私がいたわずか三〇分間ほどの間で二回同じアクシデントが起こっているということは、おそらく年間何百回と起きているということでしょう。 その場を掃いて拭いてキレイにするだけでは、何の進歩もありません。 起こすべきアクションは、すぐにレイアウトを変更することでしょう。炊飯器が置いてあるカウンターを、幅広のものに変更する、炊飯器の横にトレーを載せるスペースを設ける、あるいは、トレーを載せておくワゴンテーブルを脇に設置する、など、いくらでも工夫は出来ます。そのような工夫・改善こそが、「そうじ」、つまり「本質を明らかにし、究めること」だと思うのです。 キレイにすべき汚れ、整えるべき乱れは、改善のチャンスなのです。(小早)株式会社そうじの力  そうじで、組織と人を磨く日本で唯一の研修会社弊社は“そうじ”を通じた「良い社風づくり」を支援します。講義、現場巡回、チームミーティング、体験実習、計画作りを通じて、社長と社員の意識改革を図り、健全な企業風土作りをお手伝いします。支援期間は1年から。毎月2回訪問を原則としますが、状況とご要望に応じて、プログラムをオーダーメイドします。また各種団体向けの講演のご依頼も受け付けております。(全国対応)そうじの力だより第155号 201861日発行 発行者:小早 祥一郎(株式会社そうじの力 代表取締役)370-0078 群馬県高崎市上小鳥町373-6 TEL:027-315-2333 FAX027-315-2334 メール:info@soujinochikara.com