第71号「そうじの力だより」

活動報告磨く心に嘘は無し〈ベクトル合わせの第一歩〉~まずは一緒に汗をかくことから~Y社でこの四月から環境整備プロジェクトがスタートしました。Y社は先代から二代目である現社長に引き継いだばかり。いろいろな問題を抱え、社員の意識もバラバラです。そうした社内のベクトルを合わせるために、「そうじの力」を導入したのです。まずはじめに、「何のために環境整備を行うのか」「どんな効果があるのか」などについての講義を行いました。講義後、質疑応答の場面では、「みんなが顔を合わせる時間がないのだから、結局まとまらない」「今までも5Sをやろうと言っていて、できなかった。だからきっと今回もできないと思う」などという否定的な意見が多く、私も「これは前途多難だな」と感じました。しかしその後、選抜されたメンバーによるリーダーミーティングにおいては、外出先から帰社した後に、品物の整理整頓をお互いに手伝いながらやろう、などという提案が出たりして、大いに前向きな姿勢が見て取れました。そして迎えた第一回の実習。ある作業場をきれいにしたいという担当社員の要望に応える形で、全社員で整理、整頓、清掃に取り組みました。まず、要るものと要らないものを分け、要らないものを捨てていきます。書類や、機械の備品類などは、たとえ使っていないものだとしても、担当者自身ではなかなか捨てにくいものです。他の社員ならば、いわば他人事なので、「これ使ってる?」と担当者に聞いて「使っていない」という答えが返ってくれば、簡単に捨てることができます。こうして、不要なものを片付けた後、いよいよ汚れている箇所を手分けして磨くことになりました。まず、機械には油汚れがこびりついていて、くすんでいます。それをクリーナーとウエス、歯ブラシなどを使って落としていきます。また、印刷機があるのですが、機械の周りにインクが飛び散り、汚れています。油性インクですから、なかなか落ちないのですが、専用のクリーナーと、ナイロンわしなどを使い、丹念に磨いていくと、ようやく地肌が見えてきました。あちこちから、「うわっ、こんなにきれいになるんだ!」「このインク、落ちないかと思ったけど、落ちたよ!」などという歓声が聞こえてきます。講義の後に否定的な意見を述べた社員さえも、見ると張り切って機械を磨いています。もちろん、内心では複雑な思いもあるかも知れません。しかし少なくとも、機械を磨いていたあの瞬間は、みんなの気持ちがひとつになっていたと思います。みんなで一緒に汗をかいてそうじをすることには、「力」があります。おそうじ 紙上講座捨てること=絞ること〈物の整理は仕事の整理〉~「あれこれ病」は失敗のもと~「整理」とは、モノの本によれば、「要るものと要らないものを明確に分けて、要らないものを徹底的に処分すること」とあります。環境整備において、最初に取り組まねばならないのが、この整理です。モノが多くあふれているような状況においては、そうじをするといっても、モノの隙間を拭くことくらいしかできませんし、ちっともきれいになった感じがしません。ですからまずは徹底的に捨てて、モノの量を減らす必要があるのです。ところが、「モノが捨てられない」という人の、なんと多いことか。その原因は突き詰めれば「執着」だと思います。たとえば、「思い出の品」。昔の写真など、まず見ることはありません。見ない=不要ということですが、それを捨てられないのは、過去に執着があるからです。過去の書類を捨てられない、というのも同様です。「いつか見るのではないか」という思いがあるのでしょうが、それよりも、未来に向けてどんどん新しい仕事を創造していくことに力を入れるべきです。モノが多い人は、過去のやり方にこだわる傾向があるようです。思い切って捨てることで、過去のやり方を捨て、新しい方法を取り入れる柔軟性を身に着けることができます。また、捨てるということは、余計なものを排除し、本当に必要なものだけに絞る、という意味もあります。私の知人に、草むしりで独立創業している人がいます。その人が先輩からしょっちゅう言われているのが、「エリアを絞れ」ということです。仕事をする地域があちこちに飛んでいては、効率が悪くなります。同様に、やる仕事の内容も、「あれもこれも」ではなく、メインのものに絞る必要があります。私たちの持てる資源(時間・お金)は限られています。あれもこれもと手を出す人(企業)は「器用貧乏」と言って、結局大成できません。ですから、自分のやることを絞り、他のことを徹底的に捨てること。私は以前、ゴルフをしていましたが、独立した時にやめました。クラブもシューズも捨てました。それは、限られた時間とお金をどこに投入すべきか考えたときに、少なくともゴルフではない、と自覚したからです。先日、事務所の環境整備をしていた草むしりの友人は、「不要なモノを捨てる、というのは、エリアや事業をメインのものに絞る、というのと同じなんですね」と言っていました。おそうじ先進企業訪問3S一筋二十四年〈京都 タナカテック様〉~根本は考え方の転換~京都に設備ライン向け乾燥機などを得意とするタナカテックという、社員三十六人ほどの鉄工所があります。同社が、過去二十四年間、3S(整理・整頓・清掃)に熱心に取り組んできた、という噂を聞きつけ、先日見学にお邪魔しました。工場内は明るくカラフルで、すべての部品、消耗品、工具の置き場が明示され、埃ひとつ落ちていません。驚いたのは、工場の奥や裏側を覗いても、ゴミや不要物がほとんど見られなかったことです。5Sや3Sに取り組んでいると言っても、多くの企業で、奥や裏は汚いものです。ここまで徹底できている、ということの背景には、単にそうじに取り組むということ以上の何かを感じさせます。実際、社長の田中稔様にお話をお伺いして、その答えが分かりました。社長は、「結局のところ、根本の考え方を変えない限り、企業は良くなりません」とおっしゃいます。「何のために働くのか、ということを全社員がしっかりと考えることです」と。同社の『経営至誠』には「弊社は社会に役立つ人づくりをめざす企業であること」とあります。以下、解説全文です。「企業は利益を出すことだけが目的ではない。社会に役立つことが目的である。利益は企業が生きていく上で必要なのである。企業は人々の幸せ作りの現実に役立ってこそ、価値がある。すべて人間が基本である。正しい価値観を持った人づくりができないと社会に役立つ物づくりはできない。又企業は永続しない。知識、技術、金、物など正しく生かすのは人である。」その「人づくり」の中心が、5S活動なのでしょう。といっても、毎朝の5S活動は、わずかに五分間。なぜ五分間なのですか?と尋ねると、「集中するためです」という答えが返ってきました。なるほど、時間をかけることにもメリットはあるし、短くすることにもメリットがあるのですね。その代わりに、週末に十五分間の時間を取り、普段できない5S活動をするのだそうです。 きちんと整備された工場内では、社員さんたちの動きも凛としていました。何より、社員さんたちの表情が優しいのが印象的でした。お知らせ◆セミナー講演録DVD販売中 先日開催した『そうじの力で会社が甦る』セミナーの講演を収録したDVDを販売しています。 本セミナーでは、なぜ整理・整頓・清掃に取り組むと会社が良くなるのか、その合理的メカニズムをご説明しました。 また、経営を改革した会社の事例の紹介や、導入にあたっての具体的方法やコツなどもお伝えしました。時 間:百二十分価 格:五〇〇0円(送料込み)お申し込みは巻末連絡先まで。折り返し、振込先等をご連絡します。◆創業道場対象者:経営者、後継者、起業志望者日 程:   六月一日(水)、七月六日(水)、   九月七日(水)、十月五日(水)、  十一月二日(水)、十二月七日(水)内 容:六時~七時半 環境整備実習       (講師:小早祥一郎)    七時半~九時 懇親朝食会    九時~十二時 須田式経営塾        (講師:須田知身)場 所:高崎市産業創造館他参加費:無料(食事代等は実費)環境整備実習においては、公園トイレ、参加者の事務所、車両などを題材に、整理・整頓・清掃を実践します。須田式経営塾では、各自の経営計画書に基づく実践発表に対し、アドバイスをもらいます。株式会社そうじの力環境整備を核とした経営改革の支援環境整備(整理・整頓・清掃)は「人づくりと組織づくり」です。講義、プロジェクトチームミーティング、体験実習(トイレそうじ、倉庫内不要物撤去、工事現場の整理整頓、工場内機械磨き、洗車、書類の整理整頓、周辺地域清掃など)を通じて、社長と社員の意識改革を図り、健全な企業風土作りをお手伝いします。支援期間は半年~一年。毎月二回訪問を原則としますが、状況とご要望に応じて、プログラムをオーダーメイドします。また講演のご依頼も受け付けております。現状調査(診断)やご相談は無料です。全国どこでも出張が可能ですので、お気軽にお問い合せください。 編集後記◆きれい? 妻からの報告。 公園で六歳の娘と四歳の息子を遊ばせていた時のこと。 その日は初夏の陽気で暑く、外にいると汗ばむくらいでした。 息子が公園内を駆け回って戻ってくると、坊主頭が汗に濡れて光っています。 妻「頭が汗でキラキラしているよ」 息子「きれいでしょ?」  「きれいだから、今日はお風呂に   入らなくていいよね?」 妻「良くないわい!」 夫のつぶやき「誰に似たのか…」