【第177号】有意注意で判断力を磨く|小暮ゴム(株)

そうじの力だより第177号支援事例紹介「有意注意」で判断力を磨く!~そうじは、ささいなことにも真剣に注意を向ける訓練~埼玉県羽生市の小暮ゴム(株)。創業八七年の、ゴムの精錬工場です。ここでは、さまざまな性質のゴムの素材を作り、出荷します。その素材を使って、次工程である成形加工会社が目的の形に整え、ゴム製品として完成させるのです。ゴム製品を作る最初の工程である精錬工場は、とても汚れます。原材料に油と粉モノを使うので、工場内にはどうしても油分と粉塵が舞ってしまいます。同社は、もともと「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」に力を入れており、精錬工場の中ではキレイな方だ、とのことでした。ただ、私がお手伝いを始めた一年前には、いろいろと問題が多いように感じました。あちこちに不要物や不明物が置かれています。道具が、ボックスの中に、ごちゃ混ぜにしまわれています。デスクの上は書類の山。工場の裏側や隅に、ゴミや汚れが溜まっていました。そこで、毎月一回、私が訪問し、各班の班長クラス社員を集めて、5Sについての研修会を開催しています。セオリー通り、まずは不要なモノを捨てていきます。一年以上使っていないものは捨てるルールにしました。工場ラインの脇の棚に、たくさんの予備部品が置いてあったのですが、それらを整理すると、既にない機械の部品だったり、壊れた部品などが多数入っており、それらはすべて処分して、必要なものだけにしました。事務所内も、デスクの上に積んであった書類や、キャビネに保管していた書類を、大量に処分しました。こうした整理を進める中で、社員からは、「こんなに不要なものがあるとは思わなかった」「今までのやり方では汚れるし、間違いが起こり得ると気づいた」「もっと気づきの感度を上げなければいけないと感じた」というような感想が出てきています。現在工場内では、「整理」の次のステップである「整頓」、つまり、置場を決めて分かりやすく表示する活動を中心に進めています。練り上げたゴムを扱うヘラは、以前は、その辺に無造作に置かれていたのですが、今はこうして、定位置化しています。マグネットを使い、ヘラの先端部分をくっつけることで定位置化しているのです。とても良いアイデアです。さらに、違う部署ですが、道具の実物大の写真を貼って、そこに収めるようにしました。こうすると、ビジュアルで分かりやすくなります。同社には、外国人の作業員も多数いるので、彼らにとっても、言葉がいらないので、とても便利です。また、隣の工場で余っていた棚を利用して、出荷前の製品を、一つひとつの製品ごとに分類して置けるようにしました。以前は、違う製品をごっちゃにして置いていたのですが、こうすることで、分かりやすく、間違いにくくなりました。事務所においても、事務用品のストックを、一つひとつの種類ごとに仕切って置けるようにしました。在庫量が一目でわかるので、発注もスムーズになりました。事務所担当の女性は、「結構片づいてきたので、活動が楽しくなってきました」と語っています。同社は、稲盛和夫さんが主宰する「盛和塾」の会員で、社長と社員が守るべき信条を現した「フィロソフィ」を掲げています。この5S活動も、そのフィロソフィを血肉化するための方策に他なりません。フィロソフィの中に、「有意注意で判断力を磨く」という文言が出てきます。「有意注意」とは、「目的を持って真剣に意識を集中させること」だそうです。私はよく、そうじを通じて、すべての物事を、意味ある状態にしましょう、と呼びかけるのですが、それはまさに「有意注意」と同義語だと解釈できます。ですから、そうじは、「有意注意」を実践するための格好の訓練だと言えるでしょう。アメーバ経営で、数字に強い利益体質を作るとともに、フィロソフィの実践と体得を通じて人格の向上を図る。それが同社の方針です。同社の小暮勝彦社長は、「90周年を迎える2023年までに、日本一キレイなゴム精錬工場を目指す」と、力強く語っています。                   (小早)今月の読書から『日産 vs. ゴーン』井上久男 著~志なき経営は、いつか行き詰まる~ ご存じの方も多いですが、私は日産自動車(株)に12年間勤め、その後独立しました。ゴーン改革の渦中に3年間いたので、内情は知っています。その私から見て、この本はよくまとまっていると感じます。 本書では、ゴーン氏の日産での在任期間を、「1999~2005年」「2005~2011年」「2011~2018年」の三つのフェーズに分けて解説しています。 最初のフェーズは「リバイバルプランとV字回復」と名づけられており、倒産しかかっていた日産が、ゴーン氏の手腕で見事に復活する時期です。縦割り組織の弊害を廃したクロスファンクショナルチームの設置や、コミットメント(必達目標)の導入、そして凄まじいコストカットなどが、予想以上の成果を出します。 ところが、2005年に転機が訪れます。日産とルノー両社のCEOの兼務です。 この時期、世界販売420万台の目標に対して実績は377万台と、コミットメントが未達するなどの「変調」が表面化します。大きな原因は、前年に、無理な増販目標を掲げて、新車を無理やり投入して達成したことによる市場の「先食い」です。 コミットメント経営は、現実的にできるかできないかに関係なく、どんどん目標値が高くなっていくので、現場は疲弊し、モラルが低下していったといいます。行き過ぎたコストカットで品質が落ち、新技術に回す金がないので技術的に他社に遅れを取っていきます。 そして第三フェーズに入ると、経営者としてのゴーン氏の実力は明らかに衰え、それを補うために目標未達の責任を部下に押し付けたり、数字のマジックを用いて業績を良く見せるなど、「自己保身」と「独裁」に走ります。 日産の体質と、ゴーン氏の限界が、下記の文章でよく表現されています。 『ゴーン経営の課題としてしばしば指摘された長期的な視点の欠如の中で、最も批判されていたのが、目先の利益を重視し過ぎる余り、長期的な研究開発投資を怠っているのではないかという点だった』 『確かに、ゴーンが長期にわたって独裁的な権限を持ち、会社を私物化した責任は重い。しかし、その私物化を許してきた他の取締役に責任はないのか』 『ゴーン社長のこれまでの経験を見ると、危機に陥った会社を再生させることは得意ですけれど、日産のような大きな会社を、再生後、長期的に安定させることは未知の世界ではないですか』 『クルマは社会を豊かにするものでなければなない・・・・・この発想が、ゴーン氏には決定的に欠けていたのではないか。多くの従業員に充実感を与え、生産拠点がある地域を潤わせ、ユーザーを楽しませるという視点がなかったのではないか。ゴーン氏はおカネをつくることが得意な経営者だった。』 他山の石としたいですね。                       (小早)株式会社そうじの力 そうじで組織と人を磨く、日本で唯一の研修会社弊社は“そうじ=環境整備”を通じた「企業風土改革」を支援します。講義、実習、チームミーティング、計画作り、現場検証を通じて、社長と社員の意識改革を図り、健全な企業風土作りをお手伝いします。支援期間は1年から。毎月1回訪問を原則としますが、状況とご要望に応じて、プログラムをオーダーメイドします。また各種団体向けの講演のご依頼も受け付けております。(全国対応)そうじの力だより第177号 2020年4月1日発行 発行者:小早 祥一郎(株式会社そうじの力 代表取締役)370-0078 群馬県高崎市上小鳥町307-1 TEL:050-3709-2333  FAX:050-6868-2721 メール:info@soujinochikara.com