【第84号】『どうすればいいか?』と悩むこと自体が前進した証し|食品会社M社
事例紹介「どうすればいいか?」と悩むこと自体が前進した証し 〈誰でもキレイにしたがっている〉~あきらめなければ、かならず火はつく~今回は、弊社がお手伝いしている食品会社M社の事例についてご紹介します。企業で環境整備に取り組もうとする場合、さまざまな障害にぶつかります。M社の場合、障害は「忙しい」ということでした。幸いなことにお客様からの注文はひっきりなしで、売り上げも伸びているのですが、それに対応できるだけの人員体制が整っていません。通常でも毎日数時間の残業をこなしている上に、突発の注文が入った場合には、さらに追加残業する、というくらいの状況。果たしてこのような状況下、どのような形で環境整備に時間が割けるのか、お手伝いする私たちも手探りの状態でした。「環境整備に最適の時間帯はいつですか?」という質問をよく受けます。私は、「自分たちが一番やりやすい時間帯です」とお答えしています。業種、業態によって、最適な時間帯は異なります。実情を無視して一律のやり方を押し付けても、何の意味もありません。どのような時間帯に活動するのが自分たちにとって一番やりやすいか、をリーダーミーティングで話し合ってもらった結果、業務が終了する間際がいい、ということになりました。勤務シフトが多様なため、出勤時間も退勤時間もバラバラです。それぞれの退勤時間の間際に、個々にそうじをしようじゃないか、ということになったのです。そのやり方で、数か月活動が続きました。リーダーミーティングで、各リーダーから進捗状況を聞くのですが、「あまり進んでいません」という報告が多いのです。聞くと、「業務終了間際だと、疲れてしまって・・・」とのこと。残業が多いのだから、無理もありません。ならば、もっと活動に適した時間帯がないのか、話し合ってもらいました。その結果、始業後すぐに、同じシフトの人間で一緒に取り組もう、となったのです。また、今までは、各部署ごとに、それぞれのテリトリーの床や機械をそうじしていましたが、どうも中途半端になってしまっているようです。そこで、活動のターゲットを当面、床に絞り、各部署ごとに取り組むのではなく、全員で、工場の床を端から端までそうじしていこう、というふうにやり方を変えました。このやり方で一か月間ほど活動したところ、雰囲気に変化が見られるようになってきました。いわく、「すごくやりやすくなりました」とのこと。まず、始業時に行うことで、「疲れて進まない」ということがなくなった。また、各部署ごとではなく全員で同じ場所をそうじすることで、「どこで何をやるか」が明確になった。さらに、床を徹底してキレイにすることで、壁の汚れも気になるようになってきた、とのこと。おもしろいのは、始業時に十五分間取り組んでいるのですが、その分がお尻にはみ出て残業を十五分間しているかというと、そうではない、ということなのです。つまり、業務効率が上がり、どこかでその十五分間を取り戻している、ということなのです。こうした報告がなされたリーダーミーティングで、あるリーダーから、「そうじ中におしゃべりをして手が止まっている人がいるのですが、どのように注意したら良いでしょうか?」という質問が出ました。すると、他のリーダーたちから、「『ほら、ここもこんなに汚れているよ』と示してやればいいんじゃないか」「『口を動かしてもいいけど、手はちゃんと動かしてね』とはっきり言った方がいい」「楽しんでやってもらいたいので、あまりきつくは言わない方がいい」など、たくさんの意見が出ました。「どのようにすればいいのか」と悩むこと自体が、大きな前進です。人は、やり方で迷う前に、まず「やる」か「やらない」かで立ち止まってしまうものです。また、「どうすれはいいか」について活発な意見交換がなされるということも、コミュニケーションが活性化してきているということです。答えはひとつではありません。こうして床のそうじが進んでくると、明らかに工場内の空気が違ってきました。今までの床は、「ヌルッ」とした感触だったのですが、今は「キュッ」という感触です。蛍光灯の照度を上げたわけでもないのに、工場全体が明るくなった印象です。つい先日のリーダーミーティングで、私は「床が本当にキレイになりました。工場内が明るくなりましたね」とコメントしたのですが、工場長は、「本当にそう思いますか?私はそうは思いません。まだ機械の下や壁と機械の隙間にたくさん汚れが残っています」と言ったのです。実はそのことはよく分かっていましたが、せっかく気持ちよく活動しているところに水を差してはいけないと思い、あえてコメントを避けていたのです。しかし、やっている本人たちが、一番よく分かっていました。工場長の発言を受けて、他のリーダーたちも、「もう一度床をやりたい」「やり残した所をキレイにしてから次のステップに進みたい」と次々に訴えたのです。ここまで来ると、私も脱帽です。「心のスイッチ」が入ったリーダーたちの表情を目の当たりにできるこの瞬間が、私にとっての至福の時です。 (小早)おそうじ匠の技洗剤は万能ではない~化学力と物理力と温度~今回は、「汚れを落とす力」について技術面から考えてみます。汚れに作用する力として①物理力②化学力③温度、の3つがあげられます。物理力=拾う、掃く、拭く、磨く、こする、けずる、といったことで、直接汚れに触れる力と言えましょうか。化学力=洗剤や薬品を使うことで、汚れを変化させる力です。具体的には、界面活性剤で油を水に溶かしたり、漂白剤でカビを白くしたりといったことです。温度=水よりお湯のほうが油汚れなどは落ちがよかったりしますが、そういうことです。この3つの力を上手に組み合わせて使うことによって、汚れをキレイに落とすことが可能になります。ところが、実際にそうじを続けていきますと、そうじにおけるこの3つの力を使う頻度はかなり偏っていることに気づきます。割合でいいますと物理力:化学力:温度=8:1:1としてもいい位に、物理力の果たす役割が大きいのです。たとえば、雑巾がけ(物理力)をしただけで落ちる汚れは多くありますが、洗剤をかけた(化学力)だけで落ちる汚れはありません。必ずそのあとに拭き取るなりこするなりの物理力が必要です。そうじとは、対象に対していかに適切な物理力を用いてあるべき状態にするかということのようです。化学力は、物理力で足りないときの補助的な役割でしかありません。道具の選択も、物理力に大きく関係します。ティッシュ、爪楊枝、綿棒、ぞうきん、スポンジ、ブラシ、たわし、ナイロンたわし、スチールたわし、ほうき、サンドペーパー、やすり、ドライバー、スクレイパーなど。「汚れよりも固く、素材よりも柔らかいもの」が、最適な道具ということになります。また、素材が平らであれば、平らなもの、凹凸があれば、ブラシ系のもの。それを手の感覚を駆使して強弱をつけながら、最も適した物理力を探すことになります。私は前職で洗剤を売っていましたが、実は洗剤だけでは汚れは落ちないと分かっていました(笑)。 (飯塚)<解説>「この汚れを落とすのに、良い洗剤はないでしょうか?」という質問を、よく受けます。そんなとき、私はわざと明快に答えないようにしています。別に意地悪をしているわけではありません。飯塚が説明したように、洗剤が万能なわけではないのです。軽い油汚れならば、お湯につけた後に固く絞った雑巾で丁寧に拭くことで、ほとんど除去することができます。トイレそうじにおいても、私はほとんど洗剤を使いません。水をつけたスポンジやナイロンたわしだけで十分に汚れが落ちます。安易に洗剤に頼ることで、創意工夫する意識が薄れてしまう危険性もあります。物理力とは、小早流に言えば「根性力」。不可能と思われるような頑固な汚れを、『岩窟王』のごとき執念で磨き上げて落とした時の快感は、映画『ロッキー』で「エイドリアーン!」と叫ぶ時の心境に似ています。(小早)おそうじコラム「なんとなくある」モノを見直す~すべてのモノに意味がある状態にする~場が「キレイである」というのは、どのような状態を指すのでしょうか? 私は、そうじの定義を「そこにあるべきモノだけにすること」としています。 以前の私もそうでしたが、現代の日本人は、モノを持ち過ぎだと思います。モノが多いと、それだけでゴチャゴチャした印象を受けます。たとえ一つひとつのモノがピカピカに磨かれていたとしても、モノが多いとキレイには見えないのです。 また、モノが多いと、ただでさえ狭い家や会社がさらに狭くなってしまいます。どこに何があるかが分かりづらいので、探すのに時間がかかります。 ゆえに、環境整備に取り組む際には、一番初めに「整理=捨てる」という作業を徹底的に行います。 ところがこの「捨てる」ということを多くの人ができません。 まず「もったいない」という気持ちが捨てる行為を邪魔します。また、「今は使っていないが、いつか必要になるのではないか」という不安も、障害となります。 こうした障害をどのように取り除けばよいのか、ということについては別の機会に詳述したいと思いますが、まずは「すべてのモノに意味がある状態にする」という観点で自分を取り巻く環境を見直してみることをおススメします。 家の中や会社の中を見回してみると、「これはなぜここにあるのだろうか?」というモノを発見することがあります。 下は、ある会社に飾ってあった亀です。先代社長が遺したものですが、代が変わってからも飾り続けていました。 社長いわく、「縁起物です」とのこと。まあ、確かに縁起物には違いないでしょう。ただ、ここにあることに「意味がある」か、と問えば、「特に意味はない」ということになるのだろうと思います。 多少の時間がかかりましたが、亀には竜宮城に帰ってもらいました(笑)。 上の写真は、別の会社に置いてあったパイロンのミニチュアです。ちょっとした遊び心ということでしょうが、果たしてこれがここに置いてあることに意味があるでしょうか。 さて、左下は「法令書式集」です。どこの会社にも一セット置いてありますね。 「これは使うんだよ」とおっしゃるかも知れません。しかし今や、これらの書式のほとんどはインターネット上で無料でダウンロードできます。 こうして、それぞれのモノの意味を問いかけていくと、たくさん捨てられるものが見つかります。 (小早)輝ちゃんはミタ!「にこにこサイクル」を目の当たりにしました!今回は、本誌トップページで紹介されている食品会社M社での一場面です。 環境整備プロジェクトを始めて九か月ほどが経過し、小早も参加しての定例のリーダーミーティングの場でした。 社長が進行をしながら、現時点までの進捗の報告と、課題の確認をしていました。この時点でいつもより雰囲気が格段に良い感じが伝わってきました。 メンバーから「ここがうまくいかないのですが、良い方法はないでしょうか」といった質問があり、それに対して他のメンバーや社長から、「私はこう思う」「こうしていった方がいいと思う」という反応があります。 短い時間で実に垣根なく社長を含めたメンバーの考えが共有されていきます。発言をしない人は誰もいません。 そしてミーティングが終盤にさしかかるころ、あるメンバーから、「僕はもっとレベルを上げていきたいんだ。」との強い意思の表明があり、他のメンバーも納得した表情でうなずいていました。 圧巻でした。私は、ここまで素晴らしいミーティングは、今までほかのどんな場面でも見たことがありません。三十分ほどのミーティング中で小早がしゃべる場面はほとんどありませんでした。 この日の指導が終了した帰りの車中で小早が「あんな風なミーティングが出来るようになると、もう私の出番はほとんどないよね。本当に嬉しいことだよね。」と感慨深そうに言っていました。 小早は、常々、そうじの力は「にこにこサイクル」を回す力だと言っています。 私は、このミーティングを目の当たりにして、この会社の中で「にこにこサイクル」が確かに回りはじめていることを感じないわけにはいきませんでした。 ここに至るまでの間、「にこにこサイクル」を回すために小早がやっていたのは、いつも現場でのそうじ指導です。 写真は、小早が食品工場の床を雑巾で拭きあげることを実演したときの様子です。 それを見た直後から、「こんなやり方でやれば良かったのだ」と理解したリーダーの皆さんが、自分の心にスイッチを入れて、全員での毎日の床の拭きあげを実践したそうです。圧巻のミーティングは、その結果でした。 私は帰りの車中で、その感慨にひたって、静かに思いをめぐらせていました。 と、その静寂を破るように「ギュルル~ッ!」と大きなお腹の音が車中に響き渡ります。まあ、いつものことではあるのですが、「いい匂いがしててさぁ、腹が減っちゃうんだよねぇ・・・。」と恥ずかしそうに笑う小早なのでした。 (飯塚)今月の読書から『祖国復興に戦った男たち』城野宏著~終戦後の中国で4年間も戦い続けた日本人たちの記録~著者の城野宏氏は、太平洋戦争の中国戦線で参謀として活躍し、1945年8月15日以降も中国に残って戦い続け、その後は15年間も監獄に入れられ、終戦から19年経ってようやく日本に帰国した、というすごい方です。帰国後は、いくつかの会社を経営するかたわらで、中国での経験を生かして「誰にでも無限の可能性がある」と説く『脳力開発』という自己啓発プログラムを提唱し、多くの人々に影響を与えました。実はこの城野宏氏、私の師匠にあたる黒田悦司氏の師匠であり、私も間接的に薫陶を受けている、といっていいでしょう。その城野氏たちの中国での活動を詳細につづったのが、この本です。終戦時の中国大陸は、蒋介石率いる国民党軍と毛沢東率いる共産党軍、それに城野氏たちのいた山西省の閻錫山軍がそれぞれ覇権をめぐって対立していました。山西省の閻錫山軍は日本軍に好意的で、日本軍の力を借りて共産党軍を倒したいと考えます。一方の城野氏たちは、山西省に石炭や鉄鉱石などの天然資源が豊富にあることに目をつけ、閻錫山軍と手を組むことでこれらの資源を日本に送り、戦後復興に役立てよう、と考えます。そして実際に、軍人と民間人合わせて数万の日本人が、戦後4年間も山西省で一大コミュニティーを作って暮らしていたのです。結局、天然資源を日本に送って戦後復興に資する、という所期の目的は達成できずにこの企ては終わってしまいますが、それにしても、「使命感に燃える」とはこういうことか、と驚かされる事実です。ところで、本稿でこの本を取り上げたのは、その中に「そうじの力」を発見したからです。日本人部隊の編成にあたり、意志薄弱なものが混じっていると士気に関わるので、ふるいにかけて少数精鋭にした方がいい、という主張に対して城野氏は、「人間は、一つの目標のために活動してゆくなかで鍛えられる。意志が薄弱か否かは、現在只今の次元の尺度で、早急に判断できるものではない。(中略)だから、淘汰にあわせるよりも、まず数を増やし、実際の活動の中で次第に誰がすぐれているか、誰がだめなのかを判定すべきだ」と主張したそうです。これはまさに企業における環境整備活動と同じです。“そうじ”という活動を通じて、誰が素直に取り組めるのか、誰がリーダーシップを取れるのか、が次第に見えてきます。また、軍隊の作戦行動中に現地の民家に宿泊する場合、城野氏は翌朝出発の際、必ず部屋を掃除した、と言います。家主は、「あなたは泊まった部屋を清掃してゆかれるでしょう。(中略)司令官がこういうふうなら、あの部隊は大丈夫だと、皆すっかり安心しているのです」と話したといいます。戦争という状況下にあっても“そうじの力”は有効のようです。 (小早)◆DVD無料頒布中!『(株)マツバラおそうじパワーアップ活動』 (9分) 岐阜県にある(株)マツバラは、鋳造メーカー。鋳造工程で砂を使用するため、大量の粉塵が発生します。 弊社がお手伝いを始めた2年半前は、粉塵が山と積もっていましたが、今や工場内は床が光るほどにキレイに。 そして「不良品が少なくなった」「若手が成長してきた」「人が辞めなくなった」などの効果が出ています。 活動の様子と社長インタビューを収めた9分間の映像DVDを無料頒布します。 巻末連絡先までお申込みください。◆小早祥一郎が講話します!☆逗子葉山倫理法人会 モーニングセミナー【日時】 7月20日(金) AM6:30~7:30【場所】 キングプラザ4F【費用】無料(朝食代は実費)【主催】逗子葉山倫理法人会☆太田かなやま倫理法人会 モーニングセミナー【日時】 7月31日(火) AM6:00~7:00【場所】 太田ナウリゾートホテル【費用】無料(朝食代は実費)【主催】太田かなやま倫理法人会 いずれも直接現地にご集合ください株式会社そうじの力環境整備を核とした経営改革の支援環境整備(規律・清潔・整頓・安全・衛生)は「人づくりと組織づくり」です。講義、プロジェクトチームミーティング、体験実習、計画作りを通じて、社長と社員の意識改革を図り、健全な企業風土作りをお手伝いします。支援期間は1年から。毎月2回訪問を原則としますが、状況とご要望に応じて、プログラムをオーダーメイドします。また各種団体向けの講演のご依頼も受け付けております。現状調査(診断)やご相談は無料です。全国どこでも出張が可能ですので、お気軽にお問い合せください。