お客様の声

(株)マツバラは、岐阜県関市にある、小物専業の熱処理から塗装・加工まで行う鋳造メーカーです。
代表取締役の松原史尚社長にお話を伺いました。
Q:「そうじの力」に取り組むことに決めた理由を教えてください。
弊社は、世界で初めて白の作業着での鋳物つくりに挑戦したり、ISO14001も早くに認定を受け、中小企業鋳物工場では初めてとなる、ゼロエミッションの達成、経済産業省からの環境優良工場認定、政府系金融機関からの環境格付け合格、三重県が主催する日本環境経営大賞、環境経営優秀賞の受賞など多くの環境整備への表彰、認定をいただいてきました。
事実、世界中からの見学者も多く、鋳物工場では「環境のマツバラ」として古くから認識をされてきました。
小早先生とは、最初にお会いしてから約10年以上になります。最初は岐阜県の青年会議所が主催した講演会(2005年)の講師に来ていただいた時でした。
ある日先生が地元関市で再び青年会議所で講演をされると聞き、先生の考えに2005年当時から共感しておりましたので、久しぶりの再会を楽しみたく前日に岐阜に入っていただき情報交換、意見交流などの目的での懇親の場をお願いいたしました。
そして翌日、工場にも来ていただくことにしました。
ところがこの日は、たまたま工場の調整日。メンテナンスをしたり、集中的に掃除をしたりする日でした。
今まで調整日にお客様を工場にご案内することはなく、調整日の風景をじっくり観察することはありませんでした。
メンテナンス活動中の職場は工具や保護具、手袋、エプロンこうしたものが散乱し、掃除の現場では、どうせ調整日に集中掃除するからと、その日までため込んだ埃や材料、補助材料などが散乱し、掃除道具も散乱しておりました。
あまりの光景に私は絶句してしまいました。
この時最初に思ったことは「調整日だからと、メンテナンスや掃除活動時に物が散乱した職場では、いつか大きな事故、災害を起こす。こんな職場では安全作業はできない」。
そして次に感じたことは、私が今までやってきた環境整備は、人に見せるため・審査の人たちに評価されるもので、社員(職場で働く人のため)のものではなかったということでした。
事実、そのあと小早先生と見学を続けると、見学コースになっていないところ、まして建物の裏や、設備の上、目につかないところはびっくりするような悲惨な状況になっておりました。
私は「目の前に起こることは絶対に何かの意味がある」それは決して偶然ではなく、何か意味があって、私に何かを教えるためにその事象が現われると信じています。
そしてこの絶句させられた現場の状況が、我が社の業況が景気に左右されたり、「時々労働災害が起きるが業界の中では、まあまあ安全を保っている方だ」と言われていたりすることと重なって感じられたのです。
鋳物工場として優秀な工場ではダメだ、「非常識にきれいな鋳物工場を作り出したい」という目標を立て、「掃除」(ただ見た目をきれいにする)から「そうじ」(会社の変革)への活動を、株式会社そうじの力と開始する決心をしたのです。
「おそうじパワーアップ活動」と命名し、そうじの力で会社をよみがえらせる活動を経営の根幹に置くことを宣言し活動を開始しました。
絶対にぶれない、どんなことがあっても会社が存続する限り、いやむしろ存続し続けるための活動として、この活動を位置づけたのです。
Q:弊社支援のどんなところが良いと思われますか?
①はっきりとした指摘
さすがと言えるほど、これまでの経験から目を落としそうなこと、気が付かない個所を見つけていただけます。そして、はっきり明確に指摘していただけます。
そうじの活動を(掃除+心のそうじ)と位置付けた初めの一歩は、この指摘を謙虚に素直に受け入れることだと考えています。
人は誰も、自身の悪いところを指摘され嬉しい人はいません。
結果、市況や世界経済といった環境のせいにしたり、出来なかった理由や失敗の犯人捜しをしたりして、自身の失敗や現実出来ていないことを正当化する。それが人間です。
しかし、現状を謙虚に受け止め、出来ない理由を探すのでなく出来る方法を語り合う。ごみが落ちていたら落とした犯人を捜すのでなく、自身がその場で拾って問題を解決する。失敗者を探すのでなく、解決策を素早く実践する活動を展開していく。
そうじをした後、そこがきれいになれば本当に気持ち良い。この気持ち良さは、私たちの心もそうじしている現れです。
こうした「心のそうじ」の実践を続けると、どんな状況でも現状を謙虚に受け止め、改善していく力の源になるのです。
活動開始前のキュポラの床面
現在のキュポラの床面
②これまでの研究・実践からくる情報とネットワーク
さすがに何十年もこの活動を続けてきただけ、小早先生をはじめとした企業そのものに、そうじの力(一言では語れない無限の力)に対する情報、そして実践者のネットワークがあります。
多分小早先生ですら恐らくその真髄を極めるといったことには至っていないのではと思いますが、何年もこの活動を実践し続けた人たちは、異なる表現でそうじを語ることがあります。
それほど奥が深い、しかし確実に大きな力(パワー、エネルギー)の存在を実践者たちは確実に気付いている。
そんな実践者たちの、交流や情報をいただくことが出来ます。
③活動継続への支援
人って本当に弱いです。弊社もどん底にいたからこの活動に真摯に向き合えましたが、収益性も高まり業況が良くなってくると少し心に隙が出てくる。
私の場合で言うと、そうじは少しも辛いことではありませんでした。
どうしたら会社がより良くなるのか、どうしたら業績が上がっていくのか。そうじをしながら一生懸命考えていると不思議と素晴らしい考えが浮かんでくるのです。そしてあっという間に1時間、2時間とそうじをしているのです。
しかし、業況がかなり改善し、やるべき課題も次から次に見つかり、人も育ち社員たちが自ら率先してこうした課題への取り組みを実践してくれるようになると、私自身は以前のように考え込まなくなるのです。
そんな状況を見越しているのか、今回このように私の活動を報告させていただける場を提供していただける。
この報告をさせていただく、この内容に目を通して頂ける皆さんの少しでもお役にたてればと願うところではありますが、それ以上に自分自身のためになっていることが実感できるのです。
現状の把握、現状に満足し、そうじをしながら考えることが少なくなってきたと過信、慢心している自身を反省し、更なる飛躍を目指して実践できる自分へと引き戻してくれます。
小早先生に、その意図があるかどうかはわかりません。しかし、それこそがそうじの力なのです。
鋳物業は、先進国化すると最も早く空洞化、途上国への移管が始まる業種です。
その理由は、もちろん価格です。ならばその価格を世界一値打ちを感じていただけるようにできれば、世界中から注文が頂ける。この恐ろしい挑戦をする勇気が出たのも、そうじの実践でした。
しかし、売上高経常利益率が5%を超え始めると少し心に余裕が出来てきました。これこそが、過信、慢心の根幹です。
この数字では環境整備と同じ、業界の中では優秀ではあります。しかし今私は、非常識な鋳物工場「経常利益率10%以上」を目指しています。
これは非常識にきれいな鋳物工場を目指しているからこそ追いかけられるテーマです。
またそうじをしながら考え込む日が続いています。今、その糸口が確実に見えてきて、更に「絶対にできる」という確信に変わろうとしています。
そうじの力=無限の力を信じています。
Q:「そうじの力」を導入して、社内がどんな風に変わってきていますか?
効果を語り始めたら、きっと一冊の本になるのではと思うほどの効果が出ています。
どこから語ればというほどの効果を出し、この効果を限られた時間と文章の中で表現することは非常に難しく感じますが、思いつく順に少しだけ触れてみます。
弊社では「にこにこサイクル」(もし知らないようでしたら、早急にそうじの力のセミナーの受講をお勧めします)が、どの職場でも廻っているといっても過言ではありません。
つまり、全てのことが善循環、好回転しているのです。
その結果が、「世界で最も値打ちな製品を日本で作り上げる」という非常識な経営が今のところ順調に推移していることにつながっているのだと考えます。
優秀な企業、どんなに景況や市況が悪くても必ず安定的な収益を確保していく絶対の企業は、決して他社にはまねのできない圧倒的な商品若しくはサービスを持っています。
一発屋のように素晴らしい商品を開発してもすぐに真似られてしまったのでは、すぐにまた悪い時期がやってきてしまいます。
では、どんな商品やサービスが良いのか?
それは何十年もかけて、毎日こつこつと積み上げてきた技術力やノウハウが形になっている商品やサービスだと断言できます。
今日頑張ったからといって明日には成果が出ない。しかし、何年も何年も毎日やり続けてきた結果がその企業の圧倒的な力になる。
このことと、そうじへの取り組みは本当によく似ていると感じています。
何日も手を付けずにいたトイレを掃除するには時間も労力もかかり、きれいにしてもまたすぐに汚くなってしまう流れです。
毎日こつこつやっていく。今日と明日は大きく変わらなくても、毎日ほうきを持って汚れたらはき続ける。
そうじへの取り組みと、積み上げる企業努力は、全く同じことです。
そうじを続け、大きく成長し圧倒的安定感を持つ企業になっている企業の社長さんは、きっと私と同じことを実感していると思います。
圧倒的安定感とは言い過ぎかもしれませんが、弊社もここ数年で圧倒的な商品力とサービスを完成させることが出来たと感じます。
今から約65年前創業者より言い続けてきた、小物・薄物鋳物へのこだわり、これまでも品質や納期、技術、環境といったサービスでは圧倒的な信頼をいただいてきました。
そして、値段までも圧倒的な価値を生み出すことに成功し、遂に最高の商品として完成させることが出来たと感じています。
そして、その原動力になったのは、「おそうじパワーアップ活動」を通した人、社員、特に若手社員の成長です。
下野氏
一番成長をしたのはこのプロジェクトのリーダーを務めてくれている鋳造(製造)部長の下野さんです。
彼は県立岐阜商業を卒業した人ですので、技術者ではありません。大学を卒業したわけでもありません。
その彼が、社内に2名存在する工学博士や、大学院卒業生、工学部卒業した優秀なエンジニアたちを束ね、「おそうじパワーアップ活動」開始以降、生産量は約2倍、生産性やコストを3割以上改善する実績を達成した製造部門の部門経営者として君臨します。
彼は、この「おそうじパワーアップ活動」を始めた4年前には、まだ係長でした。
そうじの活動を通じて彼が一番研いたのは、コミュニケーション能力、そして絶対にあきらめない執念を礎にした目標達成能力だと感じます。
鋳物は、炎と埃の仕事です。この鋳物工場を「非常識に美しい工場にする」という目標を経営の根幹に置いて、社長(私)が社命として与えてきたのです。
この非常識への挑戦を続ける中で、彼は職場の中で次々に非常識と思われる改善を衆知を集めて成し遂げてきたのです。
同じように係のリーダーは原則新入社員に近い若手を起用してきました。人間が一番つらいのは、叱られることではない、無視されることです。
私の企業でも、私たちはそんなつもりはなくても、無視に近いことを社員、特に新入社員に近いところにはしてきたのかもしれません。
最初からあてになるわけでもなく、当たり前といえば当たり前ですが、新入社員はただ見ているとか、単純作業を繰り返しさせられることの連続であった気がします。
それではこうした社員が定着するわけはありません。
しかし、ぞうきんを持つこと、ほうきを握ることは誰にでもできます。
そして、若手にそうじのリーダーを任せ、全社員がこの若手を盛り上げるように協力していく。そうじの活動を通じてこの若手が大きく成長し、その結果が会社の業績に大きく貢献しました。
加えて、社員の離職率が大きく減少しました。
逆に、出来ればこの人たちには去ってほしいな、と私が思っていた社員が離職していったのも、文章上詳しく述べるのは差し控えますが、そこにそうじの力があったことだけ報告しておきます。
「おそうじパワーアップ活動」の表彰式で
次に、「境界線がなくなってきたこと」。
職場のそうじをする場合、これまでも自職場は比較的きれいにそうじを実践していました。しかし、弱かったのが職場と職場の境目、いわゆる境界線というところです。
この境界線、存在するのはそうじの活動だけではありません。
実際の経営の現場では、営業部と製造部、製造部と生産管理部、品質保証部と営業部・製造部、もっと言うなら経理・総務・購買、こうしたすべての部門にまたがって境界線が存在するのです。
そして、よく言えば遠慮、悪く言えば責任他人論で、この境界線に大きなロス、無駄が発生していました。
小早先生が言われるように、「ごみを誰が落としたかは問題でない、重要なのはあなた自身がひろうことだ」ということを、私は社員に徹底的に話します。
問題は誰が汚したかでなく、誰がきれいにするかである。
他人の職場でも、ごみが落ちていれば拾う。境界線を越えて、自ら行う。
「おそうじパワーアップ活動」を常に比喩し、社員、特に幹部には語り続けました。この結果が境界線から大きな成果を生み出す原動力になってきたのです。
そして「異常を見抜く力の向上」です。
トイレそうじをしていると便器や床しか見えなくなります。鏡を使い、見えないところまで掃除もできるようになります。
しかし、時に上を見上げ、換気扇やドアに目を向けてみるとまた異なった、異常が見つかるものです。
実際の職場でも同じです。時に非定常をしっかりチェックする力がそうじによって培われてきます。
すると、労働災害や、ライントラブルによるロスといった事故を防ぐことにつながってくるのです。
これまで気づかなかった、欠陥や亀裂、異音や異臭も敏感に感じられるようになる、これも弊社の大きな成長になっているのと感じます。
まだまだ語りたいことは山ほどあるのですが、最後に一番大きく成長し、変化したのは社長である私自身だということを伝えておきたいと思います。
多くの中小企業のオーナー社長にみられる傾向ですが、ひらめきや思い付きは多いがそれを継続してやり続けることが出来ない。
素直でなく、人に指摘されたり、注意されると無性に腹が立つ。
結果が悪いのを、環境や政治のせいなどにして自分の非を認めない。
常に自分が話していて、幹部や社員たちの意見を聞かない。
私はこの中小企業のおやじの典型であったと確信しています。
しかし、「そうじの活動を経営の根幹に置き、会社が存続し続ける限り絶対にこの活動は止めない。」と宣言し活動を展開してくると、非常識な鋳物工場をつくるためには、前述の典型的中小企業のおやじスタイルに決別しなければ活動は進んでいかないのです。
トイレそうじに取り組む松原社長
いくら社員にやれと命令しても、私自身が動かなければ本気度は伝わりません。
毎日、ただ黙々とそうじを続ける。
謙虚に指摘を受ける心、黙って人の話を聞く心、ただ社員の計画を喜び、そして成果を喜ぶ心、このそうじの活動をを通じて私自身が大きく成長してこれたと実感しています。
社長が変われば会社が変わる。その結果が今のにこにこサイクルがどんどん廻っていることにつながっているのではと感じます。
Q:ありがとうございました!
導入事例
「そうじの力」で社員定着率が向上した!株式会社マツバラ(岐阜県 鋳造業)
岐阜県の鋳造メーカー、(株)マツバラ。
昭和25年創業、現社長が四代目という、老舗の企業です。社員数は約120人。
同社を私小早が最初に訪れたのは、単発の社員研修をしてほしいという要望を受けてのことでした。とりあえず工場内を案内してもらってから講義という流れだったのですが、松原史尚社長いわく、「当社はそうじに力を入れている。現場もキレイだ」とのことでした。
ところが、実際に工場見学をしてみると、ずいぶんと汚いのです。同業他社に比べればキレイな方だったのかもしれませんが、私の目からは問題が多いように映りました。
一緒に回った松原社長も、私の指摘にうなずいて、「自分が思っていたよりも状態が悪い」と感じられたのだと思います。そこから、継続的にお手伝いを始めることになりました。
鋳造業というのは、原材料となる鉄をキュポラ(炉)で摂氏1,500~1,600℃という高温で熱して溶かし、それを鋳型に流し込んで製品を作ります。
火花が飛び散る鋳造工場現場
鋳型は砂を圧縮して作り、そこに真っ赤な鉄のお湯を流し込み、冷めたら鋳型を割って製品を取り出します。
そのため、製造工程で大量の粉塵が発生します。粉塵は、鋳型の砂だけでなく、鉄の蒸気(ヒューム)、そして熱源として使用するコークス(石炭)からも発生します。
工場内の床・壁・天井の梁に、これらの粉塵がたっぷりと積もっていました。多い所では20cmくらい積もっているところもありました。鋳造工場においては、これがごく当たり前の光景だということですが、私の目には、異常な世界に思えました。
床に積もった粉塵
問題は粉塵だけではありません。工具やホウキなどの定位置が決められておらず、あちこちに散乱していました。原材料なのか廃棄物なのか分からないような状態のところもありました。
私が最初に社員さんたちに対して、「整理、整頓、清掃に取り組もう。そうすれば会社は必ず良くなる」という講義をした時の彼らの反応は、「鋳造業だから仕方がない」「日々刻々粉塵が舞っているから、いくら清掃してもキレイにはならない」、というような反応でした。。
しかし今、工場内では床面が蛍光灯を反射して、光り輝いています。粉塵を完全になくすことはできていませんが、社外のお客様が工場見学をしても、衣服が汚れない状態になりました。工具や清掃用具も、きちんと定位置化されています。
定位置化された工具類
同社においては、環境整備の取り組みを「おそうじパワーアップ活動」と名付け、「おそうじ委員会」を編成して活動がスタートしました。
取り組み開始にあたって、松原史尚社長にその思いを「宣言文」として書き出し、社員全員に示してもらいました。
そこには、
「平成22年4月、経営の最重要課題として、全社一丸の掃除に取り組むことを宣言する。技術、品質、安全、納期、環境、営業、全ての基本は掃除にあると心得て、未来永遠に取り組む課題として位置づける。」とあります。
また、「お掃除心得」として、
・毎日、いつも、こつこつと、必ず実施すること ・ごみの山、埃の山は、宝の山と心得よ ・研いているのは職場でなく自身の心と心得よ ・誰かがやるではなく、自分が行うことをモットーとする ・見えない場所こそ率先して実施すること |
とあります。松原社長の熱い想いが伝わってきます。
この「おそうじ委員会」は、各部署1~2名の委員メンバーから構成されているのですが、その特徴は、役職や肩書にとらわれない人選です。社長が、提案件数や前向きな姿勢などを考慮して選んだメンバーです。
結果として、20歳代の若手や入社後数年の社員も、委員会メンバーに加わることになりました。この人選が、思わぬ効果を生んだのですが、それについては後述します。
同社では、昼夜二交代で製造を行っているため、まとまったそうじの時間を取ることができません。そのため各人が、製造作業のちょっとした合間に、ホウキをもってそうじをしています。
手待ち時間にそうじする社員
加えて、受注状況を見ながらではありますが、月に1回、すべてのラインを止めて、一日かけて、全社員が普段は手の届かない部分の整理・整頓・清掃に取り組んでいます。
当然ながら順調にいく部署と、そうでない部署に分かれてきます。
取り組みがなかなか進まない部署については、副社長をはじめとする委員会メンバーが乗り込んでいって、そうじを手伝ったこともあります。委員会の事務局である女性社員までも、ツナギを着て現場に入って、降り積もった粉塵を除去したこともあります。
当初20cmほども積もっていた床の粉塵はなくなり、今は床面が光っています。
取り組み前の工場の床面 現在の工場の床面
作業に使う道具も、ひとつひとつ定位置化を進めています。
副材料を投入する柄杓の定位置化
すると、すぐに波及効果が現れました。
まず、ある部署の粉塵レベルが下がり、防塵マスクが不要になったのです。夏場はかなり高温になる鋳造工場において、防塵マスクをしながら仕事をするのはつらいものです。
また、「不良率が大幅に低減」「事故や怪我が減った」「生産性が上がり、毎月の生産量が増えた」などなど、いろいろな目に見える効果が出来てきました。
また、お取引先が商談で来社されると、工場内を見学されます。すると、鋳造工場とは思えないキレイさに感動して、すぐに商談がまとまるのだそうです。
しかし、松原社長いわく、何より良かったのは、若手が育ってきたことだと言います。
そうじというのは、誰でもできるものです。役職や肩書が上の人が、高級なそうじができるということはありません(笑)。今日入った新人でも、前向きな気持ちさえあえば、そうじはできるのです。
その期待を込めて、委員会メンバーに社歴の浅い人や若い人を選んだのですが、彼らは見事に期待に応えてくれました。彼らが一生懸命にそうじに取り組む姿を見て、周りのベテランたちも、「自分たちもやろう」という気持ちになります。
すると、社歴の浅い人や若い人たちは、「自分にも周りに良い影響力を与えられるんだ」という自信がつきます。つまり、リーダーシップを発揮できるのです。そしてその自信を基に実務に臨みますから、実務上のステージも、どんどん上がっていくのです。
ちなみに、2017年3月現在の「おそうじ委員会」の委員長は、「おそうじパワーアップ活動」がはじまった当初、まだ入社二年目にもかかわらず委員会メンバーに抜擢された林孝明さんです。
林孝明さん(右)
林さんは、そうじに真摯に取り組む中で主体性やリーダーシップを発揮し、その姿勢が周囲から評価され、実務上も飛躍していった人です。
また、林さんにバトンタッチするまで、初代の委員長として活躍したのが、現取締役の下野猛鋳造部長です。下野さんは、初代委員長の任命を受けた時は、まだ係長だったのですが、その後、課長、部長、取締役とスピード出世していきました。下野さんの特長は率先垂範です。言葉よりも先に体が動くタイプです。その下野さんの実践力は、職人さんたちを巻き込む力があります。
こうして若手が育ってきた結果、同社の社員の定着率は飛躍的に向上しました。
今では、人が辞めないばかりか、募集をかけると定員を大幅に上回る応募があるのだそうです。
結果として、大量に注文が舞い込んだ時、同業他社が人手不足を理由に失注する分まで同社が受注することになり、売上や利益に貢献しているといいます。
同社では、半年に1回、「おそうじパワーアップ活動」の発表会&表彰を行っています。
各グループが、この半年間に注力した活動をプレゼンし、実際の現場の整理・整頓・清掃状況と合わせて社長や副社長や私が審査し、点数化します。上位3グループをそれぞれ「金賞」「銀賞」「銅賞」として表彰するのです。
金賞の表彰式。右端は松原史尚社長
この表彰式が、毎回、なかなか盛り上がります。金賞を受賞したグループはガッツポーズです。逆に惜しくも銅賞を逃したグループは悔しがります。この発表会も、ずっと続けているので、同社の風物詩になりつつあります。
同社における取組の流れは、以下のとおりです。
①発表会において、過年度の振り返りと次年度の計画を発表する。各グループはその計画書を基に日々の活動に励む。
②毎月1回訪問し、委員会の事務局メンバーと一緒に工場内を巡回する。
③各所を回り、改善が進んでいる箇所は誉め、課題点については改善策の指摘を行う。
小早による工場巡回のようす
④事務局が、それらを写真入りで詳細に記録し、議事録にまとめる。議事録は後日全部署に回覧され、それをもとに各グループの活動に修正が加えられる。
⑤次回の訪問日に、前回指摘事項の改善状況を確認する。
これらのPDCAの運用を繰り返し、改善を重ねていっています。
また、毎回の訪問日には、「パワーランチ」が開催されます。これは、松原社長をはじめ、委員会メンバーが一堂に会し、豪華弁当を食べながら「おそうじ」をテーマに懇談を行うものです。
パワーランチ
100名を超える規模の会社になると、なかなか社長と親しく話をする機会も少ないものですが、このパワーランチこそが、貴重なコミュニケーションの場になっています。
同社における取り組みの成功要因は何だったのでしょうか?いくつか考えられますが、その中で一番大きいのは、松原史尚社長ご自身の実践でしょう。
松原社長は、毎日必ず30分間そうじをされています。会社にいるときには、工場内を回って、真っ黒になって粉塵の除去をしたり、トイレそうじをしたりされています。
ロッカーを拭き掃除する松原社長
出張などで外に出ている時も、出先で30分間ゴミ拾いをされているのだそうです。
最後に、その松原社長のコメントをご紹介します。
「一番大きく成長し、変化したのは私自身だということを伝えておきたいと思います。
(中略)いくら社員にやれと命令しても、私自身が動かなければ本気度は伝わりません。
毎日、ただ黙々とそうじを続ける。
謙虚に指摘を受ける心、黙って人の話を聞く心、ただ社員の計画を喜び、そして成果を喜ぶ心…。
このそうじの活動を通じて私自身が大きく成長してこれたと感じます。
社長が変われば会社が変わる。
その結果が今のにこにこサイクルがどんどん廻っていることにつながっているのではと最近感じます。」
◆松原社長と社員さんの対談インタビューです(↓)
※もっと詳しくお聞きになりたい方は、当社セミナーにぜひお越しください!
動画
・(株)マツバラ 松原史尚社長×社員様対談
・(株)マツバラ「そうじパワーアップ活動」